香港と私③ 香港のホテル事情と香港映画
MK酒店ホテルにチェックインした私。
部屋は普通のシングルルームよりも1つ上のグレードである「デラックス」を取っていた。
この部屋で一泊の値段は7000円弱くらいである。のちに泊まるマカオのメトロポールホテル(約9000円)に比べると雲泥の差とも言えるほどの窮屈さ、不衛生感であり香港に宿泊するのはナイーブな私にはちょっと辛いものになる予感がしていた。
(スタンダードルーム)
このデラックスルームと通常のシングルルームの違いは、窓の有無とバスルームの広さである。
通常のシングルルームは参考画像の通り、便器の真上にシャワーがついているような状態であり、シャワーを浴びる際には便器に思いっきり水がかかること前提のつくりである。
一見するととても泊まれたものではない安宿なつくりだが、香港のホテルでは割とスタンダードらしい。香港の住居もこのスタイルが一般的らしい。香港は確かに長寿の町ではあるが、一方で鬱になる人も多いと聞く。体を伸ばして新鮮な空気を吸い、開放感を感じることができないと身体よりも先に心がやられるということだろうか。入ったことはないが監獄のように思える私はやっぱり恵まれた国で育ったジャパニーズであると再認識する。
香港で日本的な感覚で「普通の」バスルーム付きのホテルを探そうと思ったら1泊12,000円くらいのグレードのホテルを探す方が賢明である。過去泊まったハーバープラザ8ディグリーズや、妻が泊まったカオルーンホテルはちゃんと清潔感のあるバスルームがついていた。
体調もあまり良くなかったので2時間ほど昼寝をする。ホテルの目の前には小さな公園のようなスペースがあり、部屋は2階で地上にも近いため絶えず大きな笑い声が聞こえていたがぐっすりと眠ることができた。
体力も回復してさてどこに出かけようか?と考えるが、ビクトリアピークなどは行ったことがあったので1人で再訪しようという気持ちもさほど起こらない。とりあえず女人街や近くの市場をぐるっと歩いてみる。
歩きながらすげえなあ、と感じるのはやはり密集したマンション群である。入り口はもう廃墟のような印象すら覚える。どこで麻薬の取引があっても驚きませんというのがビジターとしての感覚なのだけれど。
シンガポールもそうだが、マンションの1、2階をテナントとし、上層階はレジデンスになっているこの不動産の活用方法は合理的だなぁと感じる。日本ではニュータウンに顕著に見られるけれども、純粋に住居しか入っていないマンションの方が圧倒的に多いような気がする。あとは、香港、シンガポールと日本との決定的な違いは新宿、渋谷のような大繁華街の中心にあるショッピングセンターの上にもレジデンスがあるということ。
新宿の伊勢丹や三越みたいな百貨店の上に、20階くらい高層マンションが建ってたりイオンモールの上が高層マンションになってたりするようなイメージ。あれ、すごく需要はあると思うのだけれど日本ではやっぱり建築基準が違うから実現しないのだろうか。シンガポールは台風も来ないし地震もないからマリーナベイサンズみたいな無茶苦茶な建物が建てられると聞いたが、香港はどうなんだ?香港は台風もバンバン来るし、環太平洋造山帯にもシンガポールより近いから地震のリスクも無くは無さそうだと感じるのだけれど。
しかし、香港は不動産の価値が下がらないことで有名だというから驚きである。下がっても必ず不動産の価値が戻る特異な地域なのだとか。日本はオリンピック・アベノミクスで不動産の価値が高まりつつあったけど、今年に入ってからボロが出始めている気がする。出生率は下がり、移民も受け入れない、人口が増える見込みがない日本の不動産の価値が上がる訳がないというのは明白で、東京こそ投資用のマンション購入なんかが流行ってはいたけれど本当に実体の無いものに対する投資だと感じる。先が見えない「ブーム」に乗っかっただけの投資が利潤を生むとは思えないんです。
香港は住環境が劣悪に見えても、それでもまだまだ人が移って来たいと思う場所だから地価が下がらないのだろう。
ただ、勇気を出してその辺のマンションの中を偵察してみたのだけれど、高層マンションが密集した場所の内側はもっと悲惨な状態になっていた。
はめ殺しの汚れた窓からマンションの内側を見ると、少しずつ溜まって行くゴミと埃と黴に塗れた人の住まない世界がそこには既に出来ていた。きっとネズミとゴキブリ、南京虫の巣窟になっていることだろう。建物を壊して建て直すとならない限り誰の手も届かないんじゃないだろうか。エアコンの室外機だけがこの「裏側」の世界で動いている。ここから吸い上げられた空気を吸って700万人以上の人達が生活しているのだと思うとなんだか胸が苦しくなる。風の谷のナウシカみたいに、逆に人間は清浄な空気の中では生きられないように適応していってしまうんじゃないだろうかとかファンタジーなことすら考えてしまう。
街歩きに満足したので、ランガムプレイスに戻ってぶらぶらしていると香港映画の予告編を上映している巨大スクリーンに目が停まった。
他の海外都市ならいざ知らず、そういえばここは世界的な「映画の街」でもある。中国語はわからないが、シンガポールで映画館に入った時のように漢字と英語のダブル字幕が出るならなんとか大筋は理解できるだろうと本場の香港で映画を楽しむのも一興という気がして来た。
一人旅ならではの自由な選択で、私はチケットを買って映画を観ることにした。夜9時からの回で89HK$だったので日本のレイトショーと同じくらいだろうか。面白いと思ったのは作品によって値段が違うこと。日本では一律で全ての作品が1800円とかだが、映画文化が盛んで作品の入れ替わりも激しい影響だろう。公開からしばらく日が経った作品は少し値段が下がるとか、人気のある作品は他の作品より価格が高くても観に来る人はいるだろう。需要と供給によって価格が変動するというのは市場の原理なのだからこれは良いと思った。
日本の映画館のシステムはきっとおかしいのだろう。観客は人気がない映画でも、人気がある映画と同じ値段を払って観なければいけない。作り手は、制作費がどれだけ多くかかろうが、低予算で作られた映画と同じ値段でチケットを販売しなければならない。
こうなると予算をかけたら値段を上げることができない分、より多くの人に来てもらう以外の選択肢が無い。すると、映画の製作にお金をかけるよりも、宣伝販促にお金をかける方が合理的、となってしまう。
原価(制作費)がどれだけ高くても、売価は一律なのだから日本の市場で利益を出すのは大変だろう。そりゃ俳優に番宣のためにバラエティ番組に出まくって貰わないと行けないし、テレビドラマの延長線上にあるような作品ばっかりになって行くだろう。
映画業界全体でシステムの最適解をもう一度議論すべき時期にあるのではなかろうか?というところである。(余談だが、芸術学部卒で、映画学を専攻していた映画オタクの私としては、日本の映画業界の未来は真剣に憂いている。)
話が毎度毎度脱線しまくりだが、この夜観た映画はHIDDEN MANという歴史+英雄モノの作品。正直あまり面白くなく、失敗した。翌日「L STORM」という香港映画らしい警察VS香港マフィアの抗争を描いた作品を観たのだがこちらの方が面白かった。というのも、言葉の壁があって細部の解らない私にとっては単純なストーリーのアクション物の方が楽しめたという理由だが。
ただ、一点興味深かったのは1943年が舞台なのでメタ的なセリフになるのだが、「この刀剣を売ればホッカイドーに家が買えますよ!」と登場人物が言ったシーン。
言われた方はキョトンとしているのだが、観客は皆笑っていた。映画内に出てくる「時事ネタ」に登場するくらいの注目度が北海道にはあるらしい。北海道を中国の州にしようという計画もあるくらい中国人に大人気の北海道。現実とならないよう切に望む。
この日は映画を観終わった後、部屋に戻り就寝。
夜中でもホテルの前に公園では笑い声が絶えず聞こえ、寝づらい事この上無かった。眠らない街の中心部に位置するホテルは、アクセスとしては最高だが眠りたい人にとっては不向きであることを思い知らされた。
夫婦で来ることがあれば、きちんとしたバスルームのあるホテルに泊まろうと思った。
また、この旅のまとめで書こうと思っているがカップルや女性の方が旅をする場合、マカオに宿泊をすることも選択肢に加えることをオススメしたい。
簡単にだけ書いておくと、今回急遽予定を変更してここ香港はMK酒店から移動してマカオのメトロポールホテルに宿泊した。
マカオは高級カジノリゾートがひしめく傍ら、普通のホテルも充実していて今回宿泊したここも価格に大差なく清潔なバスルームと空調の効いた上質なステイができた。
香港ばかりがフィーチャーされ、マカオといえばガイドブックでも香港のオマケ扱いされているが窮屈な香港のホテルに泊まるより、逆にマカオのホテルに宿泊して香港に日帰り又は1DAYトリップをする方が快適で良質なサービスを受けることができると感じた。
つづく